仕事を辞めたいと思っているのに、なかなか言い出せない
そんな経験はありませんか?
退職の悩みを抱える多くの方にとって、退職代行サービスが新たな選択肢として注目されています。しかし、退職代行サービスに関する情報が多すぎて、どれを信じれば良いか迷う方も多いでしょう。検索結果に表示される解説記事や広告の中には、サービスを運営する代行業者が自社を有利に見せている場合も少なくありません。
本記事では、中立的な視点から退職代行の仕組みやメリット・デメリットを詳しく解説しますので、信頼できる情報を探している方はぜひ参考にしてください。
退職代行とは?従業員本人に代わって退職手続きをサポートするサービス
退職代行とは、従業員本人に代わって専門業者が退職の意思表示や手続きを行うサービスです。退職を申し出るのが困難な状況にある方や、心理的負担を軽減したい方のために生まれました。
退職代行を利用すれば、直接上司や人事部門と対面することなく、スムーズに退職手続きを進められます。
退職代行業者は、労働法や退職に関する専門知識を持ち、適切かつ合法的な方法で退職手続きをサポートします。ストレスフリーな退職を望む方々にとって、心強い味方なのです。
退職代行のしくみ
退職代行の基本的なしくみは以下のとおりです。
まず、退職を希望する従業員が退職代行業者に連絡し、状況を説明します。業者は依頼者の要望や状況を詳しくヒアリングし、最適な退職プランを提案。その後、業者が依頼者に代わって会社側と連絡を取り、退職の意思を伝えます。
退職代行業者は、依頼者と会社の間に立ち、円滑な退職の実現を目指します。依頼者は直接会社とやり取りする必要がなく、精神的な負担を軽減できるのが大きな特徴です。
退職代行の必要性が高まった背景
退職代行サービスの需要が高まった背景には、現代の労働環境の変化があります。長時間労働やパワーハラスメントなど、職場のストレスが社会問題化する中、退職を申し出ることへの心理的ハードルが高まっているためです。また、「ブラック企業」と呼ばれる、従業員の権利を軽視する企業の存在も、退職代行の必要性を後押ししています。
Googleトレンドによると、「退職代行」というキーワードの検索数は2018年ごろから増加し、2024年現在も高い注目を集め続けています。
ワークライフバランスを重視する価値観の広がりや、転職市場の活性化も影響しているでしょう。
上記の要因が重なり、専門家のサポートを得て確実に退職したいという方々のニーズが高まり、退職代行サービスの市場が拡大しているのです。
退職代行業者の種類
退職代行業者には主に3つの種類があります。それぞれの特徴を見ていきましょう。
民間の事業者である退職代行サービス
民間の退職代行サービスは、最も一般的な形態です。民間業者は、退職に特化したサービスを提供し、迅速な対応が特徴です。
24時間365日対応している業者も多く、急な退職希望にも柔軟に対応できます。
料金体系も明確で、定額制を採用している業者が多い傾向にあります。ただし、法的な権限はないため、弁護士の業務範囲に該当することはできないことに注意が必要です。
労働者が加入できる労働組合の退職代行ユニオン
労働組合による退職代行は、労働者の権利を守ることに重点を置いている点が特徴です。組合員として加入することで、法的な裏付けのある強い交渉力を持てるのです。
退職意思の伝達だけでなく、退職日の調整や未払給与の請求など、労働問題全般のサポートを受けられます。加入はオンラインで完結できる場合もあります。しかし、残業代や有休の交渉を伴う退職代行の場合、タイムカードなどの資料を持参して面談が必要になることもあります。そのため、即時対応には向いていません。
交渉がまとまらず最終的に訴訟に発展した場合、弁護士のように代理人として対応できないことも理解しておきましょう。
法律に基づいた手続きを正確に行う弁護士
弁護士による退職代行は、法的な観点から最も確実なサポートを受けられる点が特徴です。
労働問題に精通した弁護士が、退職に関する交渉や手続きを代行します。そのため、複雑な労働問題を抱えている場合や、訴訟の可能性がある場合に特に有効です。ただし、費用が他の選択肢と比べて高額なサービスが多く、内容によっては成功報酬が加算される業者も存在します。また、対応に時間がかかる場合もあるため、緊急性の高い退職には向いていないことがあります。
退職代行の使い方・手順
退職代行サービスの利用手順を見ていきましょう。
- 希望の退職代行業者に相談または申込をする
- 利用にあたっての料金を支払う
- 退職代行業者の担当者と打ち合わせを行う
- 退職代行業者が勤務先へ連絡する
- 退職届の提出や会社からの貸与品の返還を行う
- 退職届が受理されたら正式に退職となる
それぞれ詳しく解説します。
1、希望の退職代行業者に相談または申込をする
まず、自分に適した退職代行業者を選びます。各業者のWebサイトを確認し、サービス内容や料金、対応の早さなどを比較します。初回は無料相談を受け付けているので、まずは相談してみるのも良いでしょう。
自分の状況や希望をしっかり伝え、具体的なプランを提案してもらいます。納得できたら正式に申し込みます。オンラインフォームやLINE、電話で簡単に申し込めるケースが多い傾向です。
2、利用にあたっての料金を支払う
申込が完了したら、料金の支払いです。前払い制で、支払い方法はクレジットカード決済や銀行振り込みなど、業者によって異なります。
料金体系は定額制が一般的ですが、オプションサービスを追加すると追加料金が発生します。支払いが確認されると、正式にサービス開始です。
なお、分割払いや後払いに対応している業者もあるので、経済的な負担が大きい場合は相談してみると良いでしょう。手数料を設定している業者も存在するため、あらかじめ確認してから決めることをおすすめします。
3、退職代行業者の担当者と打ち合わせを行う
料金支払い後、担当者との詳細な打ち合わせが行われます。打ち合わせでは、以下の内容をすり合わせます。
- 退職の理由
- 希望退職日
- 退職金
- 有給休暇の取り扱い
- 会社の就業規則
- 労働契約の内容
- 上司との関係性
担当者は、上記の情報を基に最適な退職プランを立案します。打ち合わせは通常、電話やビデオ通話、メールなどが一般的です。疑問点があれば、この段階で解消しておきましょう。
4、退職代行業者があなたの勤務先へ連絡する
打ち合わせの内容に基づき、退職代行業者が勤務先に連絡を取ります。いよいよ人事部門や上司に対して、退職の意思を伝えるのです。
まず、退職の理由や退職日などの基本的な情報が伝えられます。会社側から質問や要望があれば、業者が適切に対応します。
5、退職届の提出や会社からの貸与品の返還を行う
退職の意思が会社に伝わった後、正式な退職届を提出します。退職代行業者が退職届の作成をサポートしますが、自筆での作成が必要です。完成した退職届は会社へ郵送するので、依頼者が上司と対面する必要はありません。
また、会社から貸与されているパソコンや携帯電話、制服なども返却します。
退職代行業者は、会社と依頼者のやり取りが円滑に進むようサポートし、必要に応じて会社とのやり取りを代行します。退職に関する諸手続きが適切に行われることで、後々のトラブルを防げるでしょう。
6、退職届が受理されたら正式に退職となる
最終段階として、会社が退職届を正式に受理したことを確認します。退職代行業者は、会社から受理の通知を受け取り、依頼者に報告します。退職届が受理された時点で、法的に退職は完了です。
ただし、給与の最終清算や社会保険の手続きなど、退職後の事務処理が残っている場合もあります。退職代行業者は、手続きが適切に行われているかを確認し、必要に応じてフォローアップを行います。
すべての工程が完了したら、退職代行サービスも終了です。
退職代行サービスを利用する効果・メリット
退職代行サービスには、以下のようなメリットがあります。
- 退職を言い出せないという精神的負担を減らせる
- 自身のストレスとなっていた上司などと会わなくて良い
- 退職をしてからトラブルになる恐れが少ない
それぞれ解説します。
退職を言い出せないという精神的負担を減らせる
退職代行サービスの最大のメリットは、退職を申し出る際の精神的負担を大幅に軽減できることです。
「お世話になった上司に申し訳ない」「入社間もないから気まずい」などの理由から退職の意思を伝えにくい場合、対面せずに済む利点は大きいと言えます。
自身のストレスとなっていた上司などと会わなくて良い
退職代行サービスを利用することで、ストレスの原因となっていた上司や同僚と直接対面する必要がなくなります。特に、パワーハラスメントや人間関係のトラブルが退職の理由である場合、このメリットは非常に大きいでしょう。
また、直接対面しないことで、感情的になったり、不用意な発言をしたりしてしまうリスクも回避できます。
退職をしてからトラブルになる恐れが少ない
退職代行サービスを利用することで、退職後のトラブルリスクを大幅に減らせます。
専門知識を持った者が適切な手順で退職手続きを行うため、法的な問題や手続き上の不備が生じにくくなるためです。
たとえば、退職届の提出や最終出勤日の調整、給与の清算など、退職に関する重要な事項を漏れなく処理します。また、退職代行業者は退職金や有給休暇の取り扱いなどについても、依頼者の利益を最大限に考慮しながら調整します。
プロに任せることで、退職後に金銭的なトラブルや労働条件に関する争いが発生するリスクを抑えられるのです。
退職代行サービスを利用する際の課題・デメリット
退職代行サービスには、以下のようなデメリットも存在します。
- 利用するために費用が発生する
- 悪質な業者だと退職がうまくいかないこともある
- 会社の人間との関係が悪化する恐れがある
それぞれ見ていきましょう。
利用するために費用が発生する
退職代行サービスを利用するデメリットは、費用が発生することです。3万円~5万円程度の料金がかかります。自分で退職の手続きをする場合には発生しません。
特に経済的に余裕がない場合は、費用負担が大きく感じられることもあるでしょう。また、複雑なケースや交渉が難航する場合は、追加料金が発生する可能性も。
ただし、この費用は精神的な負担の軽減や円滑な退職を実現するための投資と考えられます。費用対効果を十分に検討したうえで、利用を決めることが大切です。
悪質な業者だと退職がうまくいかないこともある
退職代行サービスの市場が拡大する中、悪質な業者の存在も問題となっています。経験や専門知識が不足している業者や、法律を無視した強引な手法をとる業者を選んでしまうと、退職が適切に進まない可能性があります。
最悪の場合、会社との関係がさらに悪化したり、法的トラブルに巻き込まれたりするリスクも。また、個人情報の取り扱いが不適切な業者もあり、情報漏洩のリスクも懸念されます。
悪質な業者にあたるリスクを避けるためには、信頼できる業者を慎重に選ぶことが必要です。口コミや評判を確認し、実績のある業者を選択しましょう。
【主な退職代行サービスの口コミ】
会社の人間との関係が悪化する恐れがある
退職代行サービスを利用すると、会社の人間との関係が悪化する可能性があります。特に、突然の退職通告や、直接のコミュニケーションを避けることで、上司や同僚に不快感を与える可能性があるので注意が必要です。
長年勤めた会社や良好な関係を築いていた職場の場合、退職代行サービスの利用が人間関係を損なう原因になるかもしれません。さらに、退職の理由や状況を直接説明する機会を失うことで、誤解や憶測を生む可能性もあります。
デメリットを抑えるためには、退職代行業者を通じて丁寧な説明や挨拶のメッセージを伝えるなどの配慮が有効です。また、仕事上の関係と割り切り、自分の人生を大切にする意識も時には必要です。
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退職代行を利用する際の事前準備
退職代行サービスを利用する前に、以下の準備をしておくことがおすすめです。
- 有休の残日数を確認しておく
- 就業規則を確認しておく
- 退職届などの書類を作成しておく
- 会社の備品などの返却を準備しておく
- 業務の引き継ぎ資料を作成しておく
以下で解説します。
有休の残日数を確認しておく
退職前に、自分の有給休暇の残日数を正確に把握しておきましょう。
退職日までに消化しきれなかった有給休暇は、会社側が好意で買い取ってくれる可能性もあります。
また、退職日の調整にも有給休暇を利用することがほとんどです。自分で確認するのが難しい場合は、退職代行業者に確認を依頼することも可能です。有給休暇の取り扱いは会社によって異なるため、就業規則もあわせて確認しておくと良いでしょう。
就業規則を確認しておく
退職に関する手続きや条件は、各会社の就業規則に定められています。退職代行サービスを利用する前に、自社の就業規則をしっかりと確認しておくことが大切です。
特に、退職の申し出から実際の退職日までの期間(通常は2週間から1か月)や、退職金の計算方法、競業避止義務(自分が所属する企業の競合会社への転職や、競合する会社を自ら設立するなどの競業行為を禁止すること)の有無などを確認しておきましょう。
また、就業規則を事前に把握しておくと、退職代行業者との打ち合わせがスムーズになり、より適切な退職プランを立てられます。
退職届を作成しておく
退職代行サービスを利用する場合でも、退職届は何かしらの事情が無い限り自分で準備しておきましょう。
基本的な退職届には、以下を記載します。
- 宛先(会社名と代表者名)
- 退職の意思
- 希望退職日
- 日付
- 氏名
退職理由の記載が必要な場合は、「一身上の都合」と記載するのが基本です。
会社の備品などの返却を準備しておく
会社から貸与されている備品やデバイスの返却準備も、事前に済ませておきましょう。退職時のトラブルを防ぎ、スムーズな引き継ぎを可能にするためです。
以下の貸与品をリストアップしましょう。
- パソコン
- 携帯電話
- 社員証
- 制服
- 会社のクレジットカード
また、備品に保存されている個人的なデータがある場合は、事前に削除または別の場所にバックアップしておきます。
会社のメールアカウントや各種システムへのアクセス権限の解除についても確認しておきましょう。
退職代行業者に貸与品リストを提供することで、返却の調整も効率的に進められます。
業務の引き継ぎ資料を作成しておく
退職する際は、自分の担当業務を円滑に引き継ぐための資料を準備します。
以下をまとめた引き継ぎ資料を作成しましょう。
- 現在進行中のプロジェクトの状況
- 日常的な業務の手順
- 重要な連絡先リスト
- アクセス権限が必要なシステムの情報
引き継ぎ資料は、後任者や同僚が混乱なく業務を継続できるようにするためのものです。
自分の責任を果たし、プロフェッショナルな姿勢を示しましょう。誠意を見せることで会社からの無駄な抵抗を避けたり、直接連絡をしてくるなどの嫌がらせを防ぐ効果も期待できます。
まとめ
退職代行サービスは、退職に伴う精神的負担を軽減し、スムーズな退職を実現する有効な選択肢です。
直接上司と対面せずに退職できる点や、面倒なやり取りをせずに退職をすることが可能な点など、多くのメリットがあります。一方で、費用が発生することや、会社との関係悪化のリスクなど、デメリットも存在します。
退職代行サービスの利用を検討する際は、自身の状況をよく見極め、メリットとデメリットを慎重に比較検討することが大切です。
また、利用する際の事前準備として、有給休暇の残日数確認や就業規則の確認、必要書類の準備などを行うことで、より円滑な退職を実現できます。
退職は人生の大きな転機です。自分にとって最適な方法を選び、新たなステージに向けて前向きに歩み出しましょう。
監修:石川弘子 | フェリタス社会保険労務士法人 代表
特定社会保険労務士、産業カウンセラー、ハラスメント防止コンサルタント
著書:「あなたの隣のモンスター社員」(文春新書)
「モンスター部下」(日本経済新聞出版社)