退職代行を利用したいと考えていても、インターネット上で「危険」や「訴えられる」といった情報を目にし、後でトラブルにならないか不安に感じる人もいるでしょう。
退職代行を選ぶ際は、弁護士のサポートをどこまで受けられるか確認することをおすすめします。
この記事では、退職代行を使った際に、損害賠償を請求される可能性があるケースや、その対処法について詳しく解説します。退職代行の利用を検討している人は参考にしてみてください。
退職代行を利用しただけでは損害賠償請求をされることはない
一般的には、退職代行を利用しただけで損害賠償請求をされることはありません。
退職代行の利用目的が「仕事を辞めること」で、それだけでは損害賠償の対象にできないからです。ただし、退職が原因で会社に不利益を与えた場合は、退職する際に損害賠償を請求されてしまう可能性があります。
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おどしとして損害賠償請求をしてくる会社もある
悪質な会社の場合、退職代行を利用して退職の意思を示した際に、「おどし」として損害賠償請求をしてくる場合もあります。
退職代行を使ったことを直接的な損害賠償請求の理由にはできませんが、何らかの理由をつけて請求するのは自由だからです。
損害賠償請求をされ、万が一民事訴訟を提起されてしまった場合には、裁判所への出頭などといった法的な対応が必要になり、時間も精神も削られるでしょう。
あり得ない理由の損害賠償請求でも、多大なコストがかかる可能性があるので、損害賠償請求をされないように事前に対策しておきましょう。
退職時に損害賠償請求をされる事例
退職時に損害賠償請求をされると精神的にも時間的にも大変です。
それらを防ぐために、退職時に損害賠償になり得る事例を以下に7つ紹介します。
- 契約期間がまだ残っている状態での退職
- 業務の引き継ぎを行わずに会社に損害を与えた
- 2週間以上勤務先に連絡をせずに欠勤をしている
- 機密情報を漏らして会社に損害を与えた
- SNSなどで会社の名誉を傷つける発言をした
- 勤務先の従業員を引き抜こうとした
- 会社に大きな損害を与えるトラブルを起こした
それぞれ詳しく解説します。
契約期間がまだ残っている状態での退職
契約期間がまだ残っている状態での退職は、退職時に損害賠償請求をされる可能性があります。
特に、契約期間を決められている契約社員の場合、契約期間内の退職が契約から1年以内であるか、退職にやむを得ない事情がないときは、会社側から損害賠償請求を受ける可能性を高めるでしょう。なぜなら、法律では、契約期間内における自由な退職を制限しているからです。
もっとも、法律では、例外的に契約期間内に退職ができる場合として、次のような規定を定めています。民法第六百二十八条では「やむを得ない事由があるとき」と記載されており、労働基準法第百三十七条では「労働契約の期間の初日から一年を経過した日以後」と記載されています。
これらの規定により、契約から1年以上の場合か、やむを得ない事情がある場合であれば、原則として契約期間中に仕事をやめても損害賠償の請求をされません。
ただし、やむを得ない事情による退職の場合、その事情が生じた理由に従業員の過失(不注意)があった場合には、損害賠償の請求を受ける可能性があるため、注意が必要です。
参考元:民法第六百二十八条/労働基準法第百三十七条
業務の引き継ぎを行わずに会社に損害を与えた
業務の引き継ぎを行わずに会社に損害を与えた場合は、退職時に損害賠償請求をされる可能性があります。
業務の引き継ぎを行わなかったことが、会社に大きな損害を与えてしまう原因だと認められてしまうと、損害賠償の請求につながる恐れがあるので注意しましょう。
2週間以上勤務先に連絡をせずに欠勤をしている
2週間以上勤務先に連絡をせずに欠勤をしている場合は、退職時に損害賠償請求をされる可能性があります。
2週間以上の無断欠勤は悪質性が高いとされ、労働基準監督署長の認定で解雇ができ、裁判でも解雇が認められている期間となっているためです。
機密情報を漏らして会社に損害を与えた
機密情報を漏らして会社に損害を与えた場合は、損害賠償請求をされる可能性があります。
機密情報を漏らす行為は情報漏洩と呼ばれ、インターネットの普及やプライバシー保護の観点から、20年ほど前より注目されています。
機密情報を漏洩した場合は多額の損害賠償を求められるケースがあるので、情報の取り扱いには注意しましょう。
SNSなどで会社の名誉を傷つける発言をした
SNSなどで会社の名誉を傷つける発言をした場合は、損害賠償請求をされたり、刑事責任を追及されたりする恐れがあります。
発信した情報の内容が事実であったとしても、会社の評判や信用が悪くなると、顧客が減って利益の減少につながるためです。
名誉棄損罪や信用毀損罪に該当する可能性があり、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
参考元:刑法第二百三十条
また、会社と秘密保持に関する契約を締結している場合がほとんどなので、前述した情報漏洩につながる恐れがあります。
退職するからといって公の場で会社の評判を下げてしまうような発言はしないようにしましょう!
勤務先の従業員を引き抜こうとした
勤務先の従業員を引き抜こうとした場合は、損害賠償を請求される可能性があります。
やめる人が多かったり、ノウハウを持った人が外部に引き抜かれたりするのは、会社にとって損害となってしまうためです。
ハラスメントなど会社に大きな損害を与えるトラブルを起こした
会社に損失を与えるような大きなトラブルを起こした場合は、責任を追及する意味で損害賠償請求をされる可能性があります。
たとえば、ハラスメントなどの問題行動や備品の私物化、取引先とのトラブルなどが考えられます。
もし退職代行業者の利用を検討している場合は、弁護士が退職代行業務を行っている業者への依頼がおすすめです。
訴訟や損害賠償請求をされないための対策
訴訟や損害賠償など、裁判に関わると時間や精神的に追いつめられる恐れがあります。
訴訟や損害賠償請求をされないための対策を以下に8つ紹介します。
- 弁護士が提供している退職代行を利用する
- 無断での欠勤をしない
- 機密情報は丁重に扱う
- 会社から貸与されているものは必ず返却する
- 会社の名誉を傷つけるような発言をしない
- 会社に大きな損害を与えるような行動をしない
- 業務の引き継ぎは適切に行っておく
- 会社の就業規則に応じた退職をする
それぞれ詳しく解説します。
弁護士が提供している退職代行を利用する
弁護士が提供している退職代行を利用すると、損害賠償請求を避けられたり、弁護士が裁判の対応をしてくれたりします。
退職代行に弁護士が関与していると、会社側も不当に請求することが難しくなるため、損害賠償請求を諦める可能性があります。
ただし、弁護士が退職代行のどこまで関わってくるか確認しましょう。「顧問弁護士」が在籍しているだけでは、訴訟対応までのサポートはできないため退職代行業者を選ぶ際は、よく確認しましょう。
無断での欠勤をしない
前述したとおり、2週間以上の無断欠勤は損害賠償請求の対象と捉えられる恐れがあります。
無断欠勤をするくらいであれば、退職代行に依頼し、有休消化をしつつ退職の手続きを進めた方がリスクを低下させます。
一部の例外を除き、有休消化と退職希望は拒否できないため、とりあえず申請をすれば無断欠勤にならないからです。無断欠勤をした結果、損害賠償請求をされたくない場合は、早めの退職代行の利用を検討しましょう。
機密情報は丁重に扱う
機密情報の漏洩や紛失をして会社に損害を与えてしまうと、損害賠償請求をされることもあります。
機密情報は会社に返却したり、削除したりして外部漏出をしないようにしましょう。また、管理しているパスワードがある場合は、引き継ぎを行って退職した際でも損害が出ないようにします。
何気ない情報でも漏らしてしまうと莫大な被害が出て損害賠償請求をされる可能性があるので、退職後も情報漏洩には注意しましょう。
会社から貸与されているものは必ず返却する
会社から貸与されているものには会社の機密情報が入っている可能性が高いため、退職時にはすぐに返却をするようにしましょう。
退職代行に依頼した際には、どのようにして返却の流れを進めるのかを確認するのがおすすめです。
返却できていなくて損害賠償請求された場合でも、迅速に返却できれば請求を止められる可能性があります。
会社の名誉を傷つけるような発言をしない
会社の名誉を傷つけるような発言をすると、損害賠償請求の対策になります。会社の名誉を傷つけると、信用や評判を下げる原因になりかねないからです。
もう退職するからと気にせずに会社の内情をSNSで発言するだけでも、名誉棄損や情報漏洩のリスクになります。
被害が大きい際は刑事事件になる可能性もあるため、会社の名誉を傷つける発言はしないようにしましょう。
会社に大きな損害を与えるような行動をしない
ハラスメントや会社の物品を私物化するなど会社に損害を与える行動をすると、損害賠償請求をされる恐れがあります。
そのため、やめる会社とはいえ損害を与えないように注意をしましょう。
トラブルを起こした状態で退職代行を活用すると、さらなるトラブルにつながる可能性があります。
業務の引き継ぎは適切に行っておく
業務の引き継ぎがうまくできていないと、取引先の会社との関係が悪化する恐れがあり、会社に不利益を与えることにつながります。たとえば、管理用のパスワード権限やプロジェクトの進行方法などの引き継ぎです。損害賠償に発展せずとも、会社側からの接触を避けるために引継ぎはしっかり行うことをおすすめします。
会社の就業規則に応じた退職をする
就業規則を守れていれば損害賠償請求をされる可能性は低いでしょう。
しかし、退職の意思表明は3ヶ月前までに伝えるよう就業規則に記載されているケースもあります。
この場合は退職代行に相談しにくいため、就業規則を守れなくなる可能性があるでしょう。
退職代行サービスでは有給消化で迅速な退職を目指せますが、就業規則に応じたサポートはしてもらえないため、弁護士が対応する退職代行を利用しましょう。
損害賠償をされた時の対処法
退職代行を使って退職した際に、損害賠償を請求される恐れがある人は、前もって対策を立てておきましょう。
損害賠償されたときの対処法を以下に3つ紹介します。
- 弁護士へ対応を依頼する
- 労働組合に相談してみる
- 事実無根の場合は話し合いに応じない
それぞれ詳しく解説します。
弁護士へ対応を依頼する
弁護士へ対応を依頼すると損害賠償をされたときに対処できます。
退職代行を利用することに不安のある方であれば、はじめから弁護士が退職代行を行うところへの依頼をおすすめします。「労働組合」が運営するサービスでも交渉
労働組合に相談してみる
労働組合は、労働者が団結して労働条件の改善や雇用の交渉を行う組織で、労働組合費が必要ですが、労働者への不利益な扱いに対抗できたり、相談窓口として機能したりします。
労働組合がある場合は、まず相談をしてみると良いでしょう。
事実無根の場合は話し合いに応じない
事実無根の場合は話し合いに応じないようにしましょう。
退職代行を利用して退職した際は、自分の方から連絡を入れない方が無難です。
ただし、事実無根でも裁判所からの通知が来た際は対応が必要です。弁護士に相談するなどして適切に対応できるようにしましょう。
退職代行サービスを利用する際のよくある質問
退職代行サービスを利用する際のよくある質問を以下に3つ紹介します。
- 退職代行を利用した場合に退職日の交渉はできる?
- 退職金や未払いの残業代は請求できる?
- 退職代行を利用するデメリットは?
それぞれ詳しく解説します。
退職代行を利用した場合に退職日の交渉はできる?
会社との退職日の日程交渉が必要な場合は、弁護士に依頼をしましょう。
弁護士以外の人が交渉を行うと非弁行為とみなされ罰せられる恐れがあります。
退職を依頼した側にも影響する可能性があるので、日程の交渉が必要な退職をしたい際は、弁護士が退職代行をしている業者に依頼しましょう。
また、「労働組合が運営する場合でも、退職日の交渉が可能」と謳っているサービスや記事もありますが、現状の法律では退職代行サービスにおいて「何が非弁行為に該当するか」が明確に定義されていないため、境界が曖昧な状況です。そのため、やはり弁護士に依頼する方が安心です。
退職金や未払いの残業代は請求できる?
退職代行を利用した場合の退職金や未払いの残業代の請求は、弁護士が退職代行を行う場合であれば可能です。
退職時の退職金や未払いの残業代請求は弁護士の業務範囲になります。そのため、弁護士資格のない人が行うと非弁行為とされ、罰せられてしまいます。依頼者も刑事手続などに巻き込まれる恐れもあるでしょう。
退職金や未払い残業代の請求などの依頼をしたい場合は、弁護士が退職代行をしている業者に依頼しましょう。
退職代行を利用するデメリットは?
退職代行を利用する際のデメリットの例を以下に5つ紹介します。
- 費用がかかる
- 同じ業界に再就職がしにくくなる
- 会社から連絡が来る可能性がある
- トラブルが拡大する可能性がある
- 弁護士に依頼しないと罰せられる可能性がある
退職代行では、顔を合わせることなく退職できるのが魅力ですが、デメリットがあるのを考慮して選択しましょう。
また、弁護士でないと交渉や請求ができないため、退職代行業者がどこまでサポートできるか確認したうえで依頼するのがおすすめです。
また、前述の内容にもあった通り、「労働組合が運営する場合でも、退職日の交渉が可能」と謳っているサービスや記事もありますが、現状の法律では退職代行サービスにおいて「何が非弁行為に該当するか」が明確に定義されていないため、交渉や請求が必要な場合は弁護士に依頼しましょう。
こちらの記事もおすすめ:退職代行利用のデメリットとは?
まとめ
退職代行を利用して損害賠償を請求される可能性はあります。
しかし、弁護士が対応する退職代行であれば法的なトラブルにも対処できます。
損害賠償を請求されるケースは、退職代行を活用したことで退職後の直接のやり取りができなくなったことが一因です。
引き継ぎの不備による会社の不利益や、在職中のトラブル悪化などで損害賠償を請求されても、弁護士に依頼をしてあれば対応してくれるので安心です。
退職代行を選ぶ際は、弁護士が退職代行をしてくれるか、交渉や請求の対応をしてくれるか確認したうえで選びましょう。
監修:加藤滉樹|東京ブライト法律事務所
加藤滉樹|東京ブライト法律事務所
東京弁護士会所属弁護士 早稲田大学大学院法務研究科修了。
企業顧問業務を中心に、個人の交渉及び訴訟対応、刑事事件等も幅広く取り扱っています。