退職代行は非弁行為に該当する?安全に利用する方法や注意点を解説

更新日:

公開日:2024.10.29

退職代行について調べていると、「非弁行為」という言葉をよく目にすると思います。非弁行為とは、弁護士資格がない者が、報酬を得る目的で法律事務を行う違法行為のことです。

弁護士がいない退職代行業者の場合、非弁行為に該当する恐れがあります。

この記事では、退職代行の非弁行為について解説したうえで、非弁行為に該当し違法になりそうな例や依頼する際の注意点などもまとめています。退職代行への依頼を検討している方は参考にしてみてください。

退職代行における非弁行為とは?

非弁行為とは、弁護士資格を持たない人や会社が、報酬を得て弁護士にしかできない業務内容をすることです。たとえば、退職代行の場合、報酬や退職金、退職日の交渉をすることなどが挙げられます。

弁護士しかできない業務を行うこと

報酬目的で弁護士にしかできない業務を行うことは、弁護士法にて以下のように記載され禁止されています。

非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止

第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

引用元:弁護士法第七十二条

退職代行業務においても、弁護士以外の人が、報酬目的で交渉や訴訟、不服申し立てなどの行為を行ってはいけません。

とくに、退職の際によく生じる、退職日や未払い給与の支払いの交渉、退職に応じて発生する紛争に関する示談などは弁護士にしかできないので、これらが生じそうな場合は弁護士資格を持つ人が退職代行業務を行っている業者に依頼をしましょう。

※「労働組合が運営する場合でも、退職日の交渉が可能」と謳っているサービスや記事もありますが、現状の法律では退職代行サービスにおいて「何が非弁行為に該当するか」が明確に定義されていないため、境界が曖昧な状況です。

非弁行為を行うと罰則がある

非弁行為を行うと「2年以下の懲役または300万円以下の罰金」に処されると、弁護士法第七十七条に記載されています。

退職代行業者を利用する際に直接交渉を行うのは退職代行業者であるため、依頼者が非弁行為を行うわけではありません。しかし、ケースによっては依頼者が非弁行為を依頼したとみなされるため、退職代行業者を利用しただけで罰則の対象になる可能性があります。退職代行業者を利用する際は、非弁行為を行う業者に依頼しないよう注意しましょう。

参考元:弁護士法第七十七条

退職代行自体は違法なの?

退職代行はここ数年で利用される機会が増えたサービスであるため、法的な解釈が曖昧で合法か違法かの判断が難しいケースがあります。退職代行業者を利用する際は非弁行為に該当しないか心配する方もいるでしょう。

退職代行を利用することは違法ではない

退職代行業者を利用すること自体は違法ではありません。ただし、退職代行業者がサービス内容として非弁行為を行っていないことが条件です。

退職代行業者のどのような業務が非弁行為に該当する可能性があるかを理解できると、利用する際の心配が少なくなります。

主に、「未払い給与や残業代などの請求交渉」「退職日などの退職条件に関する交渉」を弁護士のいない退職代行業者が行うと、非弁行為に該当する可能性があります。利用しようと検討している退職代行業者で弁護士業務を「弁護士法人」や「弁護士」が行うか確認しましょう。

弁護士資格を持たない人間が退職に伴う交渉をすると違法になる

弁護士の資格を持たない第三者が退職に伴う交渉を行うことは違法となるため注意が必要です。

たとえば、有給休暇の消化や残業代の請求、ハラスメントによる慰謝料の請求などの交渉は、弁護士資格を持たない者が退職代行業者の業務で会社と交渉をすると非弁行為になります。また、退職代行業者の顧問弁護士の助言があった場合でも、弁護士資格を持たない人が実際の交渉を行った場合には非弁行為とみなされる可能性があります。

退職に関する交渉を依頼する際は、弁護士資格を持っている人に交渉を担当してもらえるのか確認するのがおすすめです。

退職する際に有給休暇の利用をさせない会社の対応は違法

退職する際に会社側が、「未払い賃金・残業代を支払わない」ことや「有給休暇の利用をさせない」といった対応は違法となります。

残業代は、労働基準法にて、労働時間を延長した際に、賃金の計算額の25~50%の範囲内で割増賃金を支払わなければならないとしています。また、有給休暇の利用は、労働基準法にて、半年間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に、10日の有給休暇を与えなければならないとしています。

労働基準法にも明記されているように、未払いの残業代の請求や有給休暇の利用をさせない会社側の対応は違法である可能性が高いです。中には残業代の不支給について会社の労働契約に明記されていないとして、違法でないとする会社もあるようです。しかし、残業代について明記していないから正当化されるわけではありません。

参考元:労働基準法第三十七条 労働基準法第三十九条

退職は自由にできる権利があるので、引き止めることはできない

雇用期間に定めのない場合の退職は自由にできる権利があり、会社は引き止められません。民法と労働基準法に退職の自由に関わる記載があるからです。

民法では、雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、原則として、いつでも解約の申入れができ、解約の申入れの日から2週間で終了するとしています。有期雇用の場合には自由な退職が制限されるケースがありまが、労働基準法第百三十七条、民法第六百二十八条のケースでは退職が可能です。

労働基準法では、労働契約の期間の初日から1年を経過した日以後にいつでも退職できるとしています。

参考元:民法第六百二十七条 労働基準法第百三十七条 民法第六百二十八条

資格を持っている業者に依頼すれば安心して利用が可能

退職代行業者の業務を行う人に弁護士資格があれば、非弁行為に該当しないため法律に関わる業務ができます。たとえば、未払い給与の要求や退職日の調整、退職金の支払い交渉などは弁護士資格がないと非弁行為とみなされる典型的な業務です。

非弁行為を行う退職代行業者は、法的な専門知識を有していない場合も多いため、退職に関する交渉や紛争に適切に対応できず、時間と費用をかけたにもかかわらず、退職することすらできないという事態すら招きかねません。

安心して退職代行業者を利用したい場合は、退職代行業務を行う担当者が弁護士資格を持っているか確認しましょう。

「弁護士」運営の退職代行サービスはこちら

退職代行を利用して違法になる事例

弁護士資格のない退職代行業者を利用して違法になる事例を以下に3つ紹介します。

  • 未払いの給与の要求をする
  • 退職日の調整や退職金の支払いの交渉をする
  • 顧問弁護士がいるだけで法律事務に該当する行為をはたらいていた

それぞれ詳しく解説します。

未払いの給与の要求をする

弁護士資格のない退職代行業者が、未払いの給与を要求するのは違法です。

未払い給与の要求は交渉の行為となり、非弁行為とみなされるためです。未払い給与の要求のほかにも、残業代や有給休暇消化の要求なども弁護士以外が行うと非弁行為に該当します。未払いの給与の要求は弁護士を通してする必要があります。

退職日の調整や退職金の支払いの交渉をする

弁護士資格のない退職代行業者が、退職日の調整や退職金の支払いの交渉をするのは違法です。退職日の調整や退職金の支払いの交渉は、弁護士以外が行うと非弁行為とみなされるためです。

とくに、退職日の交渉はボーナスの支給にも関わります。会社によっては特定の日にち時点で在籍していることを条件にボーナスが支給されるからです。そのため、ボーナスが支給された直後に退職を希望するケースもあるでしょう。退職金の支給額が増える際も退職日のタイミングを検討したいところです。

退職日を考慮して退職したい場合は、弁護士が直接交渉できる退職代行業者に依頼しましょう。

顧問弁護士がいるだけで法律事務に該当する行為をはたらいていた

顧問弁護士がいるだけで弁護士資格を持たない人が、法律相談や交渉などの法律事務に該当する行為をするのは違法です。法律を知らない人が交渉をしているのと変わりないからです。

一見すると退職代行業者に弁護士が関わっている場合でも、どこまで弁護士が関係するか確認しておくことが重要です。

安全に利用できる退職代行業者を選ぶコツ

安全に利用できる退職代行業者を選ぶコツを以下に5つ紹介します。

  • 弁護士の資格を持っている人が退職代行をしてくれるのか
  • 交渉などの非弁行為を行っていないか
  • 運営会社の情報が明記されているか
  • 明確に料金の記載があるか
  • これまでの利用実績は豊富か

それぞれ詳しく解説します。

弁護士の資格を持っている人が退職代行をしてくれるのか

弁護士の資格を持っている人が退職代行をしてくれるのか、退職代行業者を選ぶ際に確認しましょう。弁護士は退職代行の業務で、交渉や請求などの法律に関わる業務までできるためです。

退職の手続きをフルサポートで依頼したい場合や、法律に関わる相談をしたい場合は、退職代行業者の弁護士の資格を持っている人が退職代行をしてくれるか確認すると良いでしょう。

交渉などの非弁行為を行っていないか

交渉などの非弁行為を行っていないか、退職代行業者を選ぶ際に確認しましょう。弁護士でない人が会社との交渉や請求などの業務をすると、非弁行為として処罰されるためです。

非弁行為を依頼したり協力したりしたとみなされると、依頼者も共謀者の疑いを持たれ、処罰される恐れがあります。

退職代行業者を選ぶ際は、弁護士が法律に関わる業務を行っており、弁護士資格を持たない人は非弁行為以外の業務に徹しているか確認することをおすすめします。

運営会社の情報が明記されているか

退職代行業者を選ぶ際は、運営会社の情報が明記されているか確認しましょう。悪質であったり経営に費用を割いていなかったりする運営会社の情報はずさんなことが多く、運営会社の情報は、会社の信用だと考えられるからです。

会社の住所や資本、弁護士の弁護士登録番号などWebサイトで確認することをおすすめします。とくに、弁護士には「登録している弁護士会」と「弁護士登録番号」があるので、弁護士会のWebサイトで検索しましょう。

弁護士登録番号の検索をしたい方は以下のリンク先を参考にしてみてください。

参考:日本弁護士連合会:弁護士情報提供サービス ひまわりサーチ (bengoshikai.jp)

明確に料金の記載があるか

退職代行業者を選ぶ際は、明確に料金の記載があるかを確認しましょう。料金が明確でないと、依頼をしたあとから料金が増えてしまったり、どの項目に費用がかかっているかがわからなかったりします。

一般的に弁護士に依頼したり、相談内容の量が増えたりすると料金も増加する傾向にあります。しかし、弁護士への依頼としていても料金があまりにも安い場合は、注意が必要です。このようなケースでは、退職代行業者が非弁行為を行っていたり、そもそも詐欺だったりする可能性があるので、よく確認して依頼を検討しましょう。

これまでの利用実績は豊富か

退職代行業者を選ぶ際は、これまでの利用実績が豊富かどうかを確認しましょう。利用実績が豊富なほどさまざまな業界や規模の会社について経験があり、柔軟な対応ができるからです。

退職率100%としている退職代行業者は、弁護士の相談結果の成功率を考慮していない可能性があります。利用実績がどこまで含まれているのか確認して退職代行業者を選ぶと良いでしょう。

弁護士に退職代行を依頼するメリット

弁護士に退職代行を依頼するメリットを以下に5つ紹介します。

  • 退職に関する交渉が可能
  • 未払いの給与や慰謝料の請求が可能
  • 不当な懲戒解雇を防げる可能性がある
  • 損害賠償請求をされても対応ができる
  • 退職時に不当な誓約書への記入を強制されない

それぞれ詳しく解説します。

退職に関する交渉が可能

弁護士に退職代行を依頼すると、退職に関する交渉が可能です。法律のプロフェッショナルが退職の交渉をしてくれるため、職場に問題があった場合でもスムーズに退職の交渉ができるでしょう。

退職代行を使わなければ、自分自身で退職の交渉を行います。退職代行を利用する際は、会社と関わらずに退職をしたいケースが多いでしょう。

このときに交渉をしてくれるのが弁護士で、資格がないと非弁行為とみなされ罰せられます。

未払いの給与や慰謝料の請求が可能

弁護士に退職代行を依頼すると、未払いの給与や慰謝料の請求が可能です。弁護士の資格を持たない退職代行業者が請求をすると非弁行為となり罰せられるため、弁護士に依頼する必要があるからです。

また弁護士であれば、未払いの給与の請求方法や慰謝料の相場など法律の知識で解決できます。退職代行を利用して未払いの給与や慰謝料の請求を行おうと考えている場合は、弁護士に依頼できる退職代行業者を選びましょう。

不当な懲戒解雇を防げる可能性がある

弁護士に退職代行を依頼すると、不当な懲戒解雇を防げる可能性があります。依頼者の在職中の問題行為を指摘して、懲戒解雇にすれば会社は退職金を支払わなくて済むので、退職を認めず懲戒解雇にするケースがあるからです。

このようなケースの懲戒解雇が認められるかなどを争う際に、弁護士でないと非弁行為とされる可能性が高いです。不当な懲戒解雇や解雇の正当性について争う可能性がある場合は、弁護士に退職代行を依頼しましょう。

損害賠償請求をされても対応ができる

弁護士に退職代行を依頼すると、損害賠償請求をされても対応できます。たとえば、会社が、退職した影響でほかの従業員への残業代の支払いが発生したことや、研修費などについての賠償を請求してくる場合があるからです。

損害賠償請求に対する交渉を行うには弁護士資格が必要で、弁護士でない人が対応すると非弁行為となり罰せられます。損害賠償の請求をされそうな場合は、弁護士が退職代行できる業者へ相談しましょう。

退職時に不当な誓約書への記入を強制されない

弁護士に退職代行を依頼すると、退職時に不当な誓約書への記入を強制されなくなるでしょう。たとえば、競合会社への移籍や競合会社の設立などを防ぐため、誓約書の提出を求められる可能性があります。

在職中に得られた個人情報などを新しい会社に提供してはいけませんが、業務の経験やスキルを活用することまでは不当に抑制できません。職業選択の自由を制限することはできないため、誓約書の内容によっては不当と判断される場合もあるでしょう。

誓約書の内容を検討して、サインすべきかなどを交渉するには弁護士資格が必要です。誓約書の記載を検討したい場合は、弁護士が退職代行できる業者を選びましょう。

まとめ

退職代行を依頼する際は、交渉や請求など弁護士でないとできない業務が含まれるか確認しましょう。

弁護士以外が交渉や請求などをすることは、非弁行為として罰せられます。

依頼者も共謀したと判断されると罰せられる可能性があるため、弁護士が退職代行を行っている業者を選びましょう。

監修:加藤滉樹|東京ブライト法律事務所

加藤滉樹|東京ブライト法律事務所

東京弁護士会所属弁護士 早稲田大学大学院法務研究科修了。
企業顧問業務を中心に、個人の交渉及び訴訟対応、刑事事件等も幅広く取り扱っています。